2019年下半期の高校野球ニュース

2020年は未曾有の感染症、新型コロナウイルスの大流行により多くのイベントが大打撃を受けた。
阪神淡路大震災や東日本大震災の直後も開催されてきた選抜高校野球大会は戦時中以来の中止。続く夏の甲子園も中止となり、戦後初の春夏連続の甲子園中止となった。高校野球のみならず全ての学生スポーツ大会も中止、この年日本中が待ち望んでいた2020年東京オリンピックは延期となり、プロ野球やJリーグも開幕延期となった。
そんな新型コロナウイルス発症の前年、2019年は元号が平成から令和に変わった記念すべき年であった。このページではコロナが蔓延する前、まだ誰もが高校野球が来年も開催されると信じていた2019年下半期の高校野球ニュースを振り返るコーナーである。その中でも2019年の秋季大会を中心に掲載したい。
2019年夏の甲子園も良大会だったが、この年の秋季大会は近年で最も内容が濃く、盛り上がった秋だったと言っていい。2020年に高校3年生になる2002年度生まれの選手が最上級生となった秋季大会、まだ翌年にあのような悲劇が起きることを誰も知る由もなかった2019年秋の高校野球を語り継いでいきたい。

2019年夏

2019年春、平成最後の甲子園を制したのは愛知の古豪・東邦。平成元年春の甲子園で上宮に劇的な逆転サヨナラ勝ちで優勝して以来の30年ぶりの優勝で、見事平成最初と最後の甲子園優勝校に輝いた。
選抜大会中の4月1日に新元号の名称が発表され、5月1日に元号が変わり新たな時代「令和」がスタートした。そして2019年夏、令和最初の甲子園を目指す戦いが幕を開けた。

平成最後の選抜覇者東邦 県大会初戦コールド負け

平成最初と最後の甲子園優勝校東邦が、令和最初の甲子園も優勝と、史上8校目(9回目)の春夏連覇を目指す戦いが始まった。
愛知大会初戦の相手は無名の星城。前評判は勿論圧倒的に東邦有利。3回に前評判通り東邦が3点を先制するが、その後春の優勝投手石川がまさかの大炎上した。
3回裏に星城の4番河田に2ランホームランで2点を返すと、4回に稲吉のホームランなどで4点を取って逆転。さらに7回に星城が3点を追加し9-3。コールドが成立する7点差まであと1点となってしまった。9失点の石川は7回で降板。
そして1点でも与えれば終わりの8回裏、星城の先頭打者を打ち取るがレフト前ヒットと連続デッドボールで1アウト満塁。サヨナラコールド負けの絶体絶命のピンチ。続く6番上野の打球は三塁を守っていた春の優勝投手石川の元へ平凡なサードゴロ。バックホームで3塁ランナーをアウトにしなければならないのだが石川はなぜか1塁へ送球。その間に3塁ランナーがホームインしコールド成立、星城の8回サヨナラコールド勝ちが決まった。
2014年夏の甲子園の鹿屋中央-市和歌山を彷彿させる結末。このときの市和歌山のショート山根と同様、石川もアウトカウントを勘違いしたのかもしれない。まさかの呆気ない幕切れで平成最初と最後の甲子園王者が、令和最初の夏は愛知大会初戦でコールドで散った。元号にまたがる春夏連覇の夢はたった1試合・8イニングで終わった。

東  邦003 000 00 =3
星  城002 400 31X=10
(2019年夏愛知大会1回戦)

世代最強投手・佐々木 県決勝戦登板回避事件

2019年の高校3年世代(2001年度生まれ)の世代ナンバー1投手として全国から注目されたのが岩手の大船渡の佐々木朗希である。前年夏の岩手大会で2年生で157km/hを出してプロ注目の投手に躍り出た。秋の岩手大会は4位であと一歩で秋季東北大会出場を逃した。
そして最後の夏となった2019年夏の岩手大会では佐々木はエースで4番としてチームを牽引し、高校野球史上最速の163km/hを記録。初戦(2回戦)と3回戦は2試合連続完封勝ち、4回戦は盛岡四に延長12回の末4-2で辛勝、準々決勝は2試合連続の延長戦となり久慈に延長11回6-4で勝利、準決勝で一関工に5-0で完封勝利。大船渡は1984年以来35年ぶりの決勝進出を決めた。

花巻東と大船渡の岩手大会決勝はBS朝日で異例の生中継が組まれるほどの注目度。日本中が注目した岩手大会決勝が始まった。だが試合前、誰もが目を疑う異常事態が待っていた。
なんと大船渡のスタメンとスコアボードの選手欄に佐々木の名前がないのだ。大船渡のマウンドにも佐々木朗希の姿がなかった。なぜか今大会初登板の控え投手を先発させる大船渡。甲子園常連の強豪花巻東が佐々木のいない大船渡投手陣に苦しめられることなどもちろんなかった。
初回から得点を重ねる花巻東。3回までに4得点、5回にも1点を追加し、6回には4点を追加し9-1。その後も大船渡は花巻東にリードを広げられ、7回に先発の柴田から前川に交代するも佐々木を投げさせることなく、控え投手でつないでいく大船渡。スタメンから外れ、佐々木は4番打者でありながらバッターとして出場することすらない。
結果は12-2で花巻東が圧勝。この試合最後まで佐々木は投げることも打席に立つこともなく、佐々木朗希の夏が終わった。
試合後ネット中が大炎上し、大船渡高校には苦情電話が殺到する社会問題にまでなった。大船渡の国保監督は佐々木を登板しなかった理由を「故障の予防」としか説明せず、真相は謎のままとなった。この岩手大会決勝の佐々木登板回避事件は、令和最初の高校野球の大事件となった。

花巻東211 014 210=12
大船渡100 000 001= 2
(2019年夏岩手大会決勝)

星稜VS智弁和歌山 延長タイブレークの名勝負

高校野球史上最高の名勝負と言われる1979年夏の甲子園3回戦、箕島-星稜延長18回の激闘。星稜は延長戦に入って2度勝ち越しながら、その裏に2度も2アウトランナーなしから同点ホームランを打たれ、当時の引き分け再試合目前の最終イニング18回にサヨナラ負けで、春夏連覇した箕島に惜しくも敗れた。

星  稜000 100 000 001 000 100 =3
箕  島000 100 000 00 000 1X=4
(1979年夏3回戦)

あれからちょうど40年後の同じ3回戦で、この年ドラフト候補奥川恭伸を擁し優勝候補筆頭の星稜と、かつて箕島が率いた和歌山県の現代の盟主・こちらも優勝候補の智弁和歌山による好カードが実現した。星稜にとっては40年越しの和歌山県勢のリベンジマッチ、さらに2年前の初戦でも市和歌山に2-8で完敗したリベンジマッチである。和歌山県勢対石川県勢の夏の甲子園での対戦成績は和歌山の6戦全勝(春は石川の2勝)、まさに石川県勢にとっても悲願の勝利がかかる。

9回まで両チーム1点ずつを取り合い、1-1のまま試合は延長戦へ。40年前に続く石川県勢対和歌山県勢の3回戦の延長戦。延長12回でも決着つかず、延長13回からは前年から導入されたタイブレークが適用された。星稜は前年にも延長13回タイブレークの末済美に逆転サヨナラ負けしており、タイブレークへのリベンジマッチにもなった。
ノーアウト1・2塁から始まるタイブレークの13回、表裏両チームとも送りバント失敗で無得点。14回表も智弁和歌山は得点できず、そして迎えた14回裏、ついに決着のときがきた。星稜の先頭打者奥川が送りバント失敗で1アウトとなるが、直後の福本がレフトスタンドへ激闘に終止符を打つサヨナラ3ラン。
40年前の再現となった星稜と和歌山県勢の延長戦の死闘は、今度は星稜がリベンジを果たした。

智弁和歌山000 001 000 000 00 =1
星      稜000 100 000 000 03X=4
(2019年夏3回戦)

中京学院大中京旋風

平成最後の夏、2018年夏の甲子園は秋田県勢103年ぶりに決勝に進出した金足農の金農旋風に沸いた。
令和最初の夏、2019年夏の甲子園で旋風を起こしたのは岐阜の中京学院大中京。高校野球で中京といえば全国最多春夏11回の優勝を誇る愛知の中京大中京(旧中京商→中京)が有名だ。愛知の隣の岐阜にも中京があることは高校野球ファンの一部には知られているが、これまで甲子園での最高成績はベスト8と愛知の中京と比べて地味なイメージだった。
この年岐阜大会決勝で2年連続出場中の大垣日大に逆転勝ちして3年ぶりの夏の甲子園出場を決めると、甲子園初戦でも北照に8回に逆転勝ち。
2戦目となる3回戦では優勝候補の東海大相模と対戦。東海大相模に3点を先制されるが7回に大量7点を取って逆転し、9-4で快勝。さらに準々決勝では3年前の優勝校作新学院に初回に3点を先制され6回まで0-3とリードされるが、7回に2点を返すと8回に元の逆転満塁ホームランで6-3の逆転勝ち。岐阜大会決勝から4試合連続の逆転勝ちで初のベスト4進出を決めた。
準決勝で星稜に0-9で敗れ岐阜県勢戦後初の優勝はならなかったが、「岐阜の中京旋風」に岐阜県が沸いた夏だった。中京学院大中京で甲子園に出場したのはこの年限りで、翌年から元の中京に戻った。中京学院大中京の名前を全国に残した夏だった。

大  垣  日  大101 003 100=6
中京学院大中京004 000 0X=8
(2019年夏岐阜大会決勝)
北          照000 001 011=3
中京学院大中京000 000 0X=4
(2019年夏2回戦)
中京学院大中京010 000 01=9
東 海 大 相 模001 002 100=4
(2019年夏3回戦)
中京学院大中京300 000 000=3
作  新  学  院000 000 24X=6
(2019年夏準々決勝)

履正社が初優勝 星稜・奥川に春のリベンジ 令和最初の王者

令和最初の甲子園決勝戦は履正社と星稜。両校は選抜では初戦で対戦しており、星稜の奥川恭伸が17奪三振で履正社に3-0で完封勝ちした。春の甲子園で対戦したカードが夏の甲子園の決勝戦で再戦するのは1964年の明星-下関商、1985年のPL学園-宇部商、2012年の大阪桐蔭-光星学院に続いて4度目(2012年は史上初の春夏決勝戦同一カード)。
選抜で奥川に完封負けを喫した履正社は夏の甲子園までの4ヶ月間、打倒奥川を目標にバッティング練習を強化してきた。そして春夏通算3回目、夏は初の決勝進出で訪れたリベンジのチャンス。
星稜は1995年夏以来24年ぶり2回目の決勝進出。春夏通じて石川県勢初、夏は北陸勢でも初、北信越勢としては1928年の松商学園以来91年ぶりの夏の甲子園優勝を目指していた。

2回に岡田の先制タイムリーで春の対戦に続いて星稜が先制するが、3回表、履正社の奥川対策の打力練習が実を結んだ。2アウト1・2塁から井上広大の打球は甲子園のレフトスタンドに飛び込む逆転の3ランホームラン。
7回に星稜が同点に追いついた直後の8回、野口のセンター前タイムリーと岩崎のレフト前タイムリーで2点を勝ち越し。これが決勝点となった。
9回裏、星稜は1アウト1・2塁と同点のチャンスを作るが、最後の打者をダブルプレー。履正社が春の雪辱を果たし、3回目の決勝戦で悲願の初優勝を決め、令和最初甲子園優勝校となった。

履正社003 000 020=5
星  稜010 000 200=3
(2019年夏決勝)

2019年秋

2019年シーズンの高校野球が終わり、2020年シーズンの新チームの戦いが始まった。この秋の新チームの最高学年は2002年度生まれ、のちに悲劇の世代と呼ばれる世代の戦いである。

九州に離島旋風

2019年秋の県大会での台風の目となったのは、九州の大崎と八重山農林だった。
大崎は長崎の西彼大島にある県立校。西彼大島は近海にあって本土と橋で結ばれているため離島とは言えないが、島嶼部の学校の快進撃に長崎は沸いた。準決勝で大村工に7回コールド勝ち、決勝で2018年春の甲子園ベスト8の強豪創成館を4-2で破り、長崎大会初優勝。秋季九州大会出場を決めた。
八重山農林は沖縄の石垣島にある離島の県立校。沖縄大会準々決勝で宜野湾、準決勝で具志川に逆転勝ちし、決勝でも強豪沖縄尚学に9回に5点差を追いつく粘りを見せる。延長10回7-8でサヨナラ負けしたが、沖縄大会準優勝で秋季九州大会出場を決めた。石垣島の学校の九州大会出場は2015年の八重山以来4年ぶり。
九州大会では大崎は大分商に延長10回3-4で惜敗、八重山農林は福岡第一に1-8で7回コールド負けしともに初戦敗退。21世紀枠選出も期待されたがともに県推薦にも選ばれず、翌年の選抜出場はならなかった。

大      崎100 300 000=4
創  成  館000 000 020=2
(2019年秋季長崎大会決勝)
宜  野  湾300 000 230=8
八重山農林011 031 03X=9
(2019年沖縄大会準々決勝)
八重山農林001 000 200=3
具  志  川011 000 000=2
(準決勝)
八重山農林001 010 005 0 =7
沖 縄 尚 学010 203 010 1X=8
(決勝)
大  分  商010 020 000 1=4
大      崎000 000 030 0=3
(2019年秋季九州大会1回戦)

被災地磐城 東北大会出場

2019年秋季大会、西日本の台風の目が大崎と八重山農林なら、東日本の台風の目は福島の磐城だ。
3.11で原発事故を起こした福島第一原発に近いいわき市にあり、1971年夏に甲子園準優勝経験がある古豪。福島大会3位で秋季東北大会出場を決めるが、東北大会開催中に台風19号の被害を受けた。
台風で被災した中で東海大山形に6-0で快勝、能代松陽に2-1で競り勝ち東北大会2勝をあげた。準々決勝で仙台城南に3-6で敗れたが、原発事故と台風を乗り越えたことが評価され21世紀枠の福島県推薦に選出、東北地区推薦も通過した。そして見事に最終選考の3枠にも選出され、1995年夏以来の甲子園出場を決めた。

高専初の甲子園出場に近づいた近大高専

中部地方の台風の目となったのは三重の近大高専。三重(東海地区)は21世紀枠の区分けでは東日本に分類されるが近大高専のある三重県名張市はほぼ近畿地方で、地理的には完全に西日本だ。
秋季三重大会準々決勝で2016年夏の代表校いなべ総合に延長13回タイブレークの末2-1、準決勝で甲子園優勝経験のある強豪三重に6-5で勝利。決勝で2015年夏の代表校津商に2-0で完封勝ちし三重大会初優勝、秋季東海大会出場を決めた。
秋季東海大会は初戦で加藤学園に4-5で惜しくも敗れたが、21世紀枠の三重県推薦に選出。東海地区推薦にも選出され、高専初の甲子園出場の夢が膨らんだ。選抜選考日には歴史的瞬間を見届けるために近大高専に多くのマスコミが押しかけたが、最終選考で惜しくも落選。あと一歩で高専初の甲子園出場はならなかった。

西武台 痛恨のサヨナラエラーで選抜逃す

勝てば選抜出場が当確となる秋季関東大会準々決勝で群馬3位の健大高崎と埼玉2位の西武台が対戦。
健大高崎は群馬大会準決勝で宿敵前橋育英にまたしても敗れるが、3位決定戦で勝利。群馬県がこの年の秋季関東大会開催県だったおかげで幸運にも関東大会出場を果たし(関東は基本的に県2位までしか地区大会に出場できない)、関東大会初戦で常総学院に9回に5-4で逆転勝ちした。西武台は初戦で青藍泰斗に9-6で勝利。1988年以来32年ぶりの選抜出場を目指す。
序盤に両チーム2点ずつ取り合い、2-2のまま9回へ。9回裏、健大高崎は1アウト1・3塁でサヨナラのチャンス。健大高崎の9番山畑の打球を二塁手の小松が弾いてしまい3塁ランナーがホームイン。サヨナラエラーという意外な幕切れで健大高崎がベスト4進出、翌年の選抜出場に前進した。その瞬間西武台の伊沢捕手はその場にうずくまった。
惜しくも敗れた西武台は埼玉2位だったことが響いて翌年の選抜は落選。関東5枠目は埼玉1位の花咲徳栄が選ばれた。西武台は補欠1位にも選ばれず補欠2位に留まった。

西  武  台011 000 000 =2
健 大 高 崎110 000 001X=3
(秋季関東大会準々決勝)

智弁対決・選抜出場をかけた壮絶なナイター乱打戦

奈良の智弁学園と智弁和歌山、ユニフォームもそっくりな兄弟校対決が勝てば選抜出場が当確となる秋季近畿大会準々決勝で実現した。両者は2002年夏の甲子園3回戦で対戦し、そのときは7-3で弟分の智弁和歌山が勝った。甲子園での対戦はこの一度きりだが近畿大会では秋と春に1度ずつ対戦。1995年の秋季近畿大会準々決勝では智弁和歌山が5-0で勝利し、公式戦17年ぶりの対戦となった2019年の春季近畿大会1回戦では7-5で初めて兄貴分の智弁学園が勝利した。そして近畿大会では春秋連続での対戦となった。

初回に智弁学園が山下の2ランホームランなどでいきなり大量6点を先制。智弁学園のコールド勝ちペースかと思われたが、3回に智弁学園の守備が乱れ2つの暴投で智弁和歌山が3点を返し、6-3。4回に智弁学園が3点を追加し再び6点差とするが、5回に川上のホームランで1点、6回に徳丸の3ランホームランなどで4点を返して、9-8と智弁和歌山が1点差まで追い上げた。
6回裏に智弁学園が満塁からライトオーバーの走者一掃タイムリーツーベースなどで一挙5点を追加し6点差に広げると、7回表に智弁和歌山が連続押し出し四球で3点を返し再び3点差。8回裏、智弁学園が3点を追加し17-11、あと1点でコールド負けとなる中で智弁和歌山はなんとかしのいだ。
9回表、ボークとレフト前タイムリーで智弁和歌山が2点を返すも反撃はここまで。17-13、両軍30安打30得点でナイターにまでもつれた壮絶な打撃戦を智弁学園が制し、ベスト4進出。翌年の選抜出場に前進した。敗れた智弁和歌山は17失点という内容の悪さで選抜出場が厳しくなったかと思われたが、その後奈良大付と京都翔英がコールド負けしたためなんとか6枠目で選抜に選出された。

智弁和歌山003 014 302=13
智 弁 学 園600 305 03X=17
(2019年秋季近畿大会準々決勝)

京都翔英の夢を打ち砕いた甲子園覇者の一発

選抜出場をかけた秋季近畿大会準々決勝、第1試合の智弁学園-智弁和歌山は先述のように17-13という壮絶な乱打戦の末智弁学園が快勝。第2試合の大阪桐蔭-明石商は大阪桐蔭が序盤の3点差を跳ね返し4-3で逆転勝ちし、第3試合の天理-奈良大付は14-0で天理が6回コールド勝ちした。
ベスト4進出の学校はほぼ当確。5枠目・6枠目争いは準々決勝敗退校のうち大阪桐蔭に善戦した明石商が兵庫県勢で唯一初戦突破したこともあり一歩有利だ。一方コールド負けした奈良大付は点差に加えて奈良県勢が2校ベスト4に進出したことから選抜は絶望的。智弁和歌山はコールド負けは回避したが試合内容と17失点がマイナスになりそうだ。

明  石  商120 000 000=3
大 阪 桐 蔭003 001 00X=4
天      理230 045=14
奈 良 大 付000 000= 0
(6回コールド)

準々決勝の最終試合は夏の甲子園優勝校の大阪2位の履正社と京都大会優勝の京都翔英が対戦した。
これまでの3試合の結果、京都翔英はこの準々決勝で負けてもロースコアに持ち込みコールド負けを回避すれば、府1位で、ベスト8に他に京都勢がなく地域性でも有利なことから選抜出場が有力になる。履正社は負けると府2位であることと、大阪桐蔭がベスト4進出を決めているため地域性で不利になり、選抜は微妙になる。
履正社が2回までに7点を先制するが、3回に京都翔英が3点を返すと、4回以降は両チームとも得点が入らず7-3のまま試合は8回まで進む。
8回裏2アウト1・2塁、あとアウト1つでチェンジ・9回突入である。コールド負けを回避さえすれば選抜出場が有力になる京都翔英は、事実上選抜出場まであとひとりとなった。誰もが履正社と京都翔英両校の選抜出場を確信し、この試合を見ていた智弁和歌山の選手・関係者とファンは選抜絶望を覚悟して頭を抱えていた矢先、履正社の夏の甲子園優勝メンバー・小深田大地のバットが京都翔英の選抜出場の夢を打ち砕いた。
小深田の打球は京都翔英外野手の頭上を越え、コールド成立となる7点差に広げる3ランホームラン。2アウトからのまさかのサヨナラコールド3ランで京都翔英はコールド負け。その瞬間京都翔英の三塁手はその場にうなだれた。
京都翔英はこのコールド負けが響いて翌年の選抜は落選、一球でつかみかけていた甲子園が逃げていった。一方準々決勝17失点で一度は選抜出場が厳しくなった智弁和歌山は、小深田のサヨナラコールドホームランに救われ選抜選出を果たした。

京 都 翔 英003 000 00 = 3
履  正  社160 000 03X=10
(8回コールド)
(2019年秋季近畿大会準々決勝)

明治神宮大会 明徳義塾VS星稜因縁の対決

2019年夏、星稜は優勝候補として甲子園決勝まで進出するも履正社に惜しくも敗れて準優勝。来年こそは悲願の初優勝を目指し結成された新チームは、エース奥川恭伸が抜けたものの、甲子園経験者が多く残り旧チームと遜色ない戦力で石川大会7季連続優勝(2017年秋から)、北信越大会も圧倒的な強さで4季連続優勝(2018年春から)を決めた。
明治神宮大会初戦、星稜と対戦するのはこちらも四国大会を圧倒的な強さで優勝した明徳義塾。あの1992年夏の甲子園の松井秀喜五打席連続敬遠事件の再戦である。甲子園での対戦は春夏通じてあれ一度きりであり、今回は甲子園ではないが27年ぶりの公式戦での対戦である。
前評判では夏の準優勝校星稜が有利であったが、星稜1点リードの4回に鈴木の3ランホームランなどで明徳義塾が逆転し、その後は明徳がリード。8-5で明徳義塾が27年前に続いて勝利した。

明徳義塾000 431 000=8
星    稜001 020 011=5
(2019年神宮大会1回戦)

中京大中京 明治神宮大会初優勝

秋季東海大会を前評判通りの強さで優勝した中京大中京は、明治神宮大会でも難敵明徳義塾に8-0で7回コールド勝ちし、準決勝に進出。
天理は奈良大会準決勝で智弁学園に3-13でまさかの6回コールド負けを喫し県3位での近畿大会出場となったが、近畿大会では初戦で報徳学園に終盤6点を勝ち越して7-1で競り勝ち、準々決勝で奈良大付に14-0で6回コールド勝ち、準決勝で夏の甲子園優勝校履正社に4-3でサヨナラ勝ち、決勝で2018年の甲子園春夏連覇の大阪桐蔭に12-4で快勝し近畿大会優勝。明治神宮大会でも初戦で仙台育英に8-6の打撃戦の末勝利した。

明治神宮大会準決勝で中京大中京と天理が対戦した。このカードは1997年春の甲子園決勝の再戦で、そのときは4-1で天理が勝っている。また2008年の明治神宮大会初戦でも対戦しており、このときも9-1の7回コールドで天理が勝っている。中京にとっては2度の敗戦へのリベンジマッチだ。
初回に山元のセンターオーバータイムリーと松島投手の暴投で天理が2点を先制。その裏に中京大中京が1点を返すが、2回に河西のホームランで1点を追加。さらに5回に河西の2本目のホームラン、6回に瀬の2ランホームランなどで天理は6回まで毎回得点で8-4とリードする。
7回天理の攻撃を初めてゼロに抑えた直後の7回裏に中京が1点を返すと、8回裏1アウト満塁から左中間への2点タイムリーで1点差。そして内野を抜ける逆転タイムリーで9-8と中京が逆転。
だが逆転され1点を追いかける形になった天理も粘る。9回表、2アウトランナーなしから河西がライトスタンドへの同点ホームラン。明治神宮大会史上初となる河西の1試合3本目のホームランで土壇場で9-9再び同点。
9回裏、2アウト満塁から中島のサヨナラヒット。10-9とあの2009年夏の甲子園伝説の決勝戦と同じスコアで中京大中京がサヨナラ勝ちし、この打撃戦を制した。

天      理211 112 001 =9
中京大中京110 020 141X=10
(2019年神宮大会準決勝)

中京大中京は決勝でも健大高崎に4-3で勝利し、明治神宮大会初優勝。東海地区の神宮枠獲得を決めた。
中京大中京-健大高崎の明治神宮大会決勝で、2019年の高校野球が幕を閉じた。そしてこの試合が2020年シーズン、2002年度生まれの選手が出場する最後の高校野球全国大会の試合となってしまうのであった。

健 大 高 崎020 100 000=3
中京大中京103 000 00X=4
(2019年神宮大会決勝)

2020年選抜出場枠争い

2019年の秋季大会が終了し、毎年恒例の選抜出場校予想が始まった。この年の主な注目は 最も激戦となったのは関東・東京の6枠目争い。だが最も有利と思われた花咲徳栄が順当に選出。他の地区でも全くといっていいほど波乱はなく、一般枠・神宮枠はすべての地区で順当な選出となった。

2019年秋 その他のスポーツ

2019年下半期は高校野球以外にもいろんなスポーツが注目された。翌年に東京オリンピックを控え、その代表選考も盛り上がっていた。コロナが蔓延する前の、まだ日本中がスポーツに熱狂していた時期のニュースである。

世界柔道選手権 日本メダルラッシュ

日本のお家芸柔道。東京オリンピックを翌年に控えた2019年8月、オリンピックと同じ開催地の同じ会場、東京の日本武道館で世界柔道選手権が行われた。
オリンピックの代表選考の重要資料となるこの大会、日本選手団は前評判通りの強さを発揮。男子66kg級では準決勝で日本人対決が実現した。2017年・2018年の世界選手権を連覇し、3連覇を狙う阿部一二三と、前年12月のグランドスラムと同年4月の選抜体重別選手権で阿部を破って世界選手権を初出場を果たした丸山城志朗の対戦。本戦の4分で決着がつかず、ゴールデンスコア方式の延長戦は10分近くもつれる激闘の末、丸山が勝利した。丸山は決勝で韓国選手に一本勝ちし世界選手権初優勝、オリンピック代表に前進した。阿部も銅メダルを獲得しこの階級は日本が金銅2つのメダルを獲得。
男子73kg級はリオデジャネイロオリンピック金メダリストの大野将平が圧倒的な強さで優勝。女子52kg級は阿部詩、女子78kg超級は素根輝が優勝した。
最終日は東京オリンピックの新種目となる男女混合団体戦。日本が決勝でフランスを破り前年に続いて連覇を達成した。

レスリング世界選手権 川井姉妹が涙の東京オリンピック代表内定

2019年9月に行われた世界レスリング選手権。この大会でメダルを獲得すれば翌年の東京オリンピック代表内定となる。
ちなみにレスリングは2013年2月に一度、2020年のオリンピック種目からの除外候補にあがったことがある。しかしオリンピック3連覇の吉田沙保里などのロビー活動の効果で、2020年オリンピックの東京開催が決定した翌日の2013年9月8日にレスリングの存続が決まった。
2019年4月の世界選手権代表選考会、女子57kg級はアテネ大会からリオデジャネイロ大会まで日本史上初のオリンピック4連覇を達成した伊調馨と、リオデジャネイロオリンピックの女子63kg級(現62kg級)の金メダリスト川井梨紗子の世界女王対決となった。川井は2018年末から階級を62kg級から57kg級に変え伊調馨に挑戦した。
前年12月の天皇杯では伊調が終了間際に川井に逆転勝ちし優勝、世界選手権代表に王手をかけていた。この代表選考会では川井が1点差で伊調に勝利、天皇杯のリベンジを果たし代表選考を五分に戻す。そして6月のプレーオフで川井が勝利し世界選手権代表が決定した。

伊調馨との事実上の世界一決定戦を制した川井梨紗子は、圧倒的な強さで順当に世界選手権を優勝。2017年から62kg級で2連覇、階級をまたがって世界選手権3連覇を達成し、東京オリンピック代表が決定した。
この大会でもう1人注目されたのはその川井の3つ下の妹、女子62kg級の川井友香子。準々決勝でまさかのフォール負けを喫し、一度はオリンピックが遠ざかるが、敗者復活戦に勝利し、3位決定戦でテクニカルフォール勝ち。銅メダル獲得で東京オリンピック代表決定、夢の姉妹揃ってのオリンピック代表内定となり、川井姉妹は涙を流した。

ラグビーワールドカップ 日本初の決勝トーナメント進出

2019年(令和元年)の最大のスポーツニュースはこれをおいて他ならないだろう。2019年9月20日、初めて日本で開催されたラグビーワールドカップが開幕した。
日本は開幕戦でまさかのミスでロシアに先制されるも、松島幸太郎のハットトリックなどで逆転しロシアに30-10で快勝。別グループのプールBではニュージーランド-南アフリカの優勝候補同士がいきなり初戦で激突し、ニュージーランドが23-13で勝利した。

第2戦は大会前世界ランキング1位だったアイルランドと対戦。前半21分までアイルランドに3-12とリードされるが、田村優のペナルティゴール2つで3点差に追い上げると、後半18分、途中出場の福岡堅樹のトライで逆転。さらに田村のコンバージョンゴールとペナルティゴールで追加点をあげ、19-12でアイルランドに逆転勝ち。2015年の南アフリカ戦に続く2度目の大金星をあげた。
第3戦はラファエレティモシー・姫野和樹・福岡堅樹・松島幸太朗のトライでサモアに38-19で快勝、プール戦3連勝をあげ、悲願の決勝トーナメント進出に王手をかけた。前回の2015年は日本は3勝1敗の好成績をあげながら勝利数で上位3チームが並び、勝ち点で決勝トーナメント進出を逃している。今回も3勝1敗で3チームが並ぶ可能性があり、最終戦も負けられない戦いになった。
初の決勝トーナメント進出をかけた最終戦の相手は前回プール戦4試合で唯一敗れ、プール戦突破を阻止されたスコットランド。勝ったほうがプール戦突破となる運命の大一番。前半6分にスコットランドに先制されるが、前半17分に松島幸太朗のトライで追いつき、前半25分に稲垣啓太のトライで逆転。前半39分と後半2分に福岡堅樹のトライで21-7とリードした。その後スコットランドが2トライを決め1トライ差に追い上げられるが、残り30分で逃げ切り28-21でスコットランドに勝利。日本は4戦全勝・1位通過でついに初の決勝トーナメント進出を決めた。

準々決勝で南アフリカに3-26で敗れベスト4進出はならなかったが、日本中が初のベスト8進出を果たしたラグビー日本代表の躍進に熱狂した。
決勝は日本を破った南アフリカと、準決勝で3連覇を狙ったニュージーランドを破ったイングランドが対戦し、32-12で南アフリカが3大会ぶり2回目の優勝を果たした。

世界野球プレミア12 日本優勝

WBCの中間年に開催される世界ランキング上位12ヶ国による野球の世界大会プレミア12。2015年の第1回大会は日本は準決勝で韓国に3-4で逆転負けし、3位に終わった。
オープニングラウンド初戦、日本は中盤までベネズエラにリードされるが、8回に菊池涼介の同点タイムリーと源田壮亮のタイムリーなどで8-4で逆転勝ち。第2戦は4回に鈴木誠也の先制3ランなどで4点を先制し、4回の4点を守りきってプエルトリコに。第3戦は台湾に8-1で快勝し、3戦全勝で1位通過した。

ベネズエラ000 103 000=4
日   本000 020 06X=8
(オープニングラウンド第1戦)
プエルトリコ000 000 000=0
日    本000 400 00X=4
(オープニングラウンド第2戦)
日   本202 001 003=8
台   湾000 000 001=1
(オープニングラウンド第3戦)

スーパーラウンド初戦はオーストラリアに2点を先制されるが、4回に鈴木誠也の3試合連続ホームランで追い上げると、7回に源田壮亮のセーフティースクイズで同点に追いつき、8回に決勝の押し出し四球を選び3-2で逆転勝ち。
第2戦はアメリカに3-4で敗れる。第3戦は初回に鈴木誠也の先制タイムリーと近藤健介のタイムリー、2回に坂本勇人のタイムリー、序盤のリードを守りきりメキシコに3-1で勝利し決勝進出を決めた。韓国との両者決勝進出を決めた国同士のスーパーラウンド最終戦は10-8の乱打戦の末勝利。

オーストラリア001 100 000=2
日     本000 100 11X=3
(スーパーラウンド第1戦)
ア メ リ カ011 010 100=4
日     本000 101 010=3
(スーパーラウンド第2戦)
メ キ シ コ000 100 000=1
日     本210 000 00X=3
(スーパーラウンド第3戦)
韓     国001 500 200= 8
日     本016 020 10X=10
(スーパーラウンド第4戦)

韓国との決勝戦、先発の山口俊が初回に3点を先制されるが、1回裏に鈴木誠也のタイムリーで1点を返すと、2回に山田哲人の3ランホームランで逆転。7回に浅村栄斗のタイムリーで追加点をあげ、5-3で韓国を破り、日本が2009年のWBC以来世界大会10年ぶりの優勝を果たした。

韓   国300 000 000=3
日   本130 000 10X=5
(世界野球プレミア12決勝)

新国立競技場こけら落とし&天皇杯決勝

2019年12月21日、完成した新国立競技場で開場式・こけら落としが行われた。
2020年元日、東京オリンピックイヤーの幕開けに(なるとまだ誰もが信じていたころ)、新国立競技場で初の試合、第99回天皇杯の決勝戦ヴィッセル神戸-鹿島アントラーズが行われた。
前半18分、藤本憲明がオウンゴールを誘いヴィッセル神戸が先制すると、前半38分に藤本憲明が追加点。2-0でヴィッセル神戸が勝利し天皇杯初優勝、全大会通じても初タイトルを獲得し、記念すべき新国立競技場初試合を飾った。

2020年年始のスポーツニュース

2020年1月3日、令和最初の箱根駅伝は青山学院大学が2年ぶり5回目の優勝を果たした。
令和最初の高校サッカー選手権大会は、決勝で静岡学園が2点差をひっくり返し3-2で連覇を狙った青森山田に逆転勝ち。静岡学園が24年ぶりの2回目の優勝(そのときは両校優勝)、初の単独優勝となった。
高校ラグビー選手権は桐蔭学園が日本代表松島幸太朗がいた年以来の9年ぶり2回目、初の単独優勝を果たした。

2020年2月、羽生結弦が四大陸選手権で初優勝した。ソチオリンピックと平昌オリンピックで、フィギュアスケート界66年ぶりのオリンピック連覇を達成した日本が世界に誇るフィギュアスケーター羽生が、これまで主要国際大会で唯一優勝経験がなかった四大陸選手権で優勝。男子フィギュアスケートで世界初のスーパースラムを達成した。女子ではキムヨナがスーパースラムを達成している。

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